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意味と訳

映画のサウンドトラックから、「Let it go」という曲が大ヒットしている。英語を話すことも聞き取ることもできないが、初めて聞いた瞬間から、曲の力を感じる。不思議だが何かが伝わってくるのだ。具体的に客観的には分からないが、この歌を歌う人は、何かを悟り、何か吹っ切れるものがあり、新しい生き方をしようとしている。ことがつたわってくる。どんな映画なのだろう。興味がわいてくる。

ところで、この歌の日本語版は、この、「Let it go」の部分を「ありのままに」と歌われている。なるほど名訳だと思う。映画を見たわけではないが、おそらく、この歌の本質をとらえて訳されたものだろう。Let it goを単語一つ一つの意味をそのまま考えてみると、「let」は「させる」「it」は状況などを漠然と捉えて「それを」「go」はここでは「進める」となる。そうなると、「let it go」の意味は「それを進めなさい」ということになる。「ありのままに」ではないのだ。そこで、「let it go」について検索してみると、この言葉は、自信がなくて一歩を踏み出せない人に「さあやりなさい」と、後押しをするときに使う言葉のようである。そうすると、やはり、「ありのままに」は、元々この言葉の持つ意味ではなさそうである。しかし、映画の中で、伝えたいことを十分に伝えるために、「ありのままに」と訳されたのだろう。

実は、英語を学習するときに、意味と、訳と、両方考えるべきだと思う。訳だけを学習していると、その言葉がどういう気持ちから生まれてきて、どういう気持ちで使われているのか、その言葉を使う人たちの発想の方法、その言葉を使う人たちの文化が十分に理解できないからだ。

たとえば、わかりやすいところで、
「I was born.」の訳は「私は生まれた」だが、意味は「私は産み落とされた」であり、日本語を使う人たちにとって、誕生は主体的な出来事であるととらえられているのに対して、英語圏の人たちにとって誕生は受動的なことであることが分かる。これは、神に生かされていると考えるキリスト教の影響があるとの理解につながる。

このように、訳だけではなく、意味も学習することで、人の気持ちや背景となる文化を理解する。このことが言語学習において、本当のコミュニケーションにつなげるために必要である。

このようなことを書くと、訳ではなく意味が重要だと言っているように勘違いされそうだが、意味と、訳ではどちらの方が重要ということはない事を添えておこう。

たとえば、
「I'm home.」の訳は「ただいま」であり、意味は「私は家にいる」である。この、「I'm home.」は直感的に「ただいま」という意味で使われていることを理解していなければ、何を言っているか分からないことだろう。このようなものは、訳を直接丸暗記しておくことが重要だ。